ストレス障害

ストレスとは

人間にとってストレス0の状態はまずありえません。日常生活をとりまく暑さ寒さ、降雨や日照りなどの物理的な刺激、公害や薬害などの科学的刺激、対人関係や仕事、家庭環境などの心理的刺激など、あらゆるものがストレスの原因(ストレッサー)となることがあります。
ストレスは、このように普通に存在するものですが、うまく適応できず、心や体、行動影響がでてしまうと、それはストレス性の疾患となります。
たとえば心の影響では、不安、いらだち、無気力といった症状、身体の影響では、頭痛、肩こり、動悸、頻尿や下痢・腹痛といった症状、行動への影響では仕事や学業に集中できない、酒量が増える、煙草の量が増えるなどが主なものです。
こうした状況が起こるメカニズムはまだわからないことも多いのですが、一定のリズムをもって生活しているところに、リズムを乱す異分子が入ってくることに対してうまく適応できるかどうかということが大きくかかわっていると考えられています。
ストレス性の疾患では、ときに対症療法的に薬などを適切に使用しながら、患者様がストレッサーに対してうまく適応できるように心理療法を行っていくことになります。また本人の理解とともに、周囲の人たちの理解も大切になってきます。

ストレス障害とは

人は生きていれば、だれでもストレスにさらされています。特に現代は情報の氾濫や社会構造の変化によって、ストレス社会といわれるほど多くのストレス要因が存在しています。そして私たちは、無意識的にこのストレス社会で、なんとかうまくバランスを取り生活をしています。
ところが、普段のストレスとの付き合い方ではとても処理できないほど衝撃の強いできごとに遭遇してしまい、そのストレスが持続することによって、日常生活にも支障を生じさせてしまうがストレス障害です。

急性ストレス障害(ASD)

急性ストレス障害は英語のAcute Stress DisorderからASDと省略されて呼ばれることもあります。生活上の通常に受けるストレスとは異なり、事故や犯罪に巻き込まれるなど、恐ろしいできごとに遭遇することで、強い一時的なストレスを受けたことが元となって発症するものです。そのできごとが強烈であればあるほど、あるいは繰り返し体験してしまうことによって発症する確率が高くなります。ストレスを受けるきっかけとなったできごとは、自分自身が遭遇したことだけでなく、自分の目の前で他者が遭遇していたことなどもあります。
受けた衝撃が強いストレスとなり、自分の中で繰り返されてしまい、不安のサイクルに落ち込み、そのできごとが起こったのと同じようなシチュエーションに対しても不安が生じます。また、ASDの患者様は、自分が自分であるという感じがなくなってしまったり、断続的に記憶が抜け落ちてしまったりするなど、解離といわれる症状を起こすこともあります。
ASDはストレスを受けた後、しばらくすると発症し、1か月以内には症状が消えていくものです。それより長く続く場合は、次項で説明する心的外傷後ストレス症候群(PTSD)と診断されます。

治療法・予後

ASDでは、ストレスのもととなった恐ろしく強烈な体験を、誰かと共有し共感してもらうことによってかなり症状の緩和が見られます。そのため、医師だけではなく、家族や親しい人も共感して話を聞いてあげることが重要になってきます。
その上で必要な場合、鎮静薬や催眠薬などを短期間処方することがあります。
時間が経過することによって、だんだんとストレスの影響が薄れ治っていきます。予後としては70%程度の人が完治または軽い症状が残る程度までおさまります。ただし、中には症状が続きそのまま心的外傷後ストレス障害(PTSD)へと以降するケースがありますので、経過観察を続けることが大切です。

心的外傷後ストレス障害(PTSD)

心的外傷後ストレス障害は、一般的には英語のPost Traumatic Stress Disorderの略語であるPTSDという名で知られています。
ASDと同様、大きな災害や誘拐などの犯罪、戦争、暴力、事故などに巻き込まれたり、性的暴行の被害にあったりして、強いストレスを受けたことがきっかけとなります。その体験が本人の中にいつまでも残り、なんども繰り返し思い出してしまうフラッシュバックを起こします。特に、トラウマとなるきっかけになったできごとを思い出すような状況になると、急に感情が不安定になってしまいます。これはできごとの数週間後から始まりますが、人によっては何年も経ってから起こることもあります。
また、そのできごとが起こった場所や状況を回避するような行動にでることがあります。たとえば電車で事故にあった方が、電車に乗ることができなくなってしまうことなどが知られています。大きな鉄道での事件や事故では、1995年のオウム真理教による地下鉄サリン事件や、2005年のJR西日本福知山線の尼崎事故の被害者のPTSD発症が知られています。また、家庭内暴力(DV)などの体験によるPTSD発症も大きな問題となっています。
その他には、きっかけとなった大きなできごとへの警戒心をたえず強くしているためにさらにストレスを感じてしまう症状なども顕著なものの一つです。
PTSDの症状は最低でも1か月以上、長期にわたって続くことが特徴となっています

治療法・予後

PTSDの治療は基本的に、感情のコントロールができなくなってしまうこと、強い不安にかられること、怖くて外出ができなくなることなど、表だった症状に対する対症療法と、本質的にトラウマそのものを乗り越えるための心理療法の2つの側面からアプローチすることになりますが、治療の中心は心理療法となります。
対症療法では、抗うつ薬、抗不安薬、精神安定薬などを使って症状を抑えていきます。
PTSDは、もし治療しないで放置した場合、3割の人は自然に治っていき、4割の人は軽い症状が残り、残りの人は慢性化したり重症化したりするという米国での統計があります。
しかし、適切な治療を行えば、ほとんどの人が病前の状態に戻ることができるものです。そのためには早期の治療開始が大切ですので、何か大きなトラウマを受けて、不安や外出恐怖などの症状を感じたら、お早めにご相談ください。

適応障害

適応障害とは、ASDやPTSDの原因が特異的な強烈なできごとであるのに対し、日常生活上の様々なストレスが原因となって、不安や無力感、憂うつ感、焦り、イライラや怒りによる攻撃性などの症状を起こすものです。悪化すると、学校や会社にいけなくなり、無断で欠勤してしまうなどといった状況もおこります。
ストレスの原因となるもの(ストレッサー)は人それぞれで異なりますが、ある人にとってはごく普通のできごと、たとえば転勤や転職、配置換え、学校においてはクラス替えや席替えなどが人によってはストレスになることもあります。また現れる症状も様々で、うつ病と異なり、ストレスに圧迫される状況にないときは、通常の日常生活が送れることが多く、またうつ病ではあらわれることの少ない攻撃性などがあることも特徴となっています。
しかし、この状態を放置して長期化させてしまうと、うつ病に移行してしまう可能性もありますので注意が必要です。

治療法・予後

適応障害の治療としては、基本的にストレッサーの影響を低減していく心理療法を中心として行います。
ストレス要因を取り除く方法として、たとえば強いストレスを与える相手から離れる、仕事などのストレスであれば一時休職するといった方法が有効ですが、常にそうした対応がとれるとは限りません。
不安症状や不眠、怒りなどの症状が強い場合、一時的に対症療法として抗うつ薬、抗不安薬などの薬物を処方します。
適応障害は、ストレスの原因がなくなることで解消されることが多く、ストレス状態が続く場合もだんだんと慣れていって解消されることが多い疾患です。そのため時間の経過とともに完治するケースがほとんどなります。

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